とりあえず視線だけがその男とぶつかったまま、それ以上身動き一つとれなかった。



「名前は?」



返事もしないのに次から次に出てくる質問に、感心すると共に呆れてしまう。


この男、明らかに年上。

ハニーブラウンの短めのツンツンした髪も、耳にしているシルバーのピアスも、整った上がり気味の眉も……。

同級生には見られない風貌。


なんて思っていたら、何を思ったのかその男は私の手首を掴んできた。



「離してください!!」



今まで何も言えなかった口が自然と開いて大声を出す。

それぐらい、突然のことに驚きを隠せなかったし、触られている部分に嫌悪を感じてしまった。



「じゃ、離すから一緒に遊ぼ?」

「……っ」

「よし、行こ?」



軽そうな見た目とは裏腹に、思ったより強い力に掴まれた手が振りほどけない。

強引なその男のペースに流されて、本当にどうしていいのか分からなくなる。


受験に失敗して、挙げ句の果てにナンパ男に付きまとわれて。

今日は厄日だ。



「もう、やだぁ……」



今まで堪えていたはずの涙が一雫、零れ落ちた。



「何かあったの? こういう時はパーッと楽しむべきだよ?」