こんなやりとりが出来るなんて想像もしていなかった。

いつまでも落ち込んで、ウジウジしていたっておかしくなかった。


過ぎてしまったことはどうしようもなくて現実は変えられない。

それなら今、目の前にある現実と向き合ってやっていくしかない。

そんな考えが芽生えたのも。彼のおかげだよね。


もう一度だけ会いたい、かな、なんて思う。



――そうして訪れた春休み。

お母さんは私立入学準備の手続きをし、私はその間思いっきり颯平と遊んで楽しく過ごした。

穏やかな春風に揺られ、桜の木の蕾は花へと変化していく。

この日に合わせたかのように満開に咲く桜の木。

私はそれを見上げる。


白いカッターシャツに不慣れな手つきで結んだ赤いネクタイ。

茶色いブレザーにチェックのスカート。


今までとは違う可愛い制服を身に纏い、今日から私も高校生。

新しい出会いに期待と不安を抱きながら、まだ慣れない通学路に胸を弾ませる。



「紗夜香何してるの? 入学式遅れるわよ」

「はーい、今行くー」



桜の木から視線を外し、お母さんのところまで駆けていく。

高校では一体どんな生活が待っているんだろう。