だけど最後はあっけないもので。
気付けば、家庭教師最後の日は訪れていた。
八月、最終の月曜日――。
その日は憂鬱な気分を抱えて、ベッドから起き上がりリビングに向かった。
既に用意された朝食を前に椅子に腰掛け、洗い物をするお母さんを正面に箸を持つ。
そして、手を合わせた瞬間。
それは本当に突然だった。
「紗夜香、気持ち伝えないの?」
「何が?」
キョトンとしている私に向かって、お母さんは振り向いて笑顔で首を傾げる。
「だって、颯平くんと別れるぐらい先生のこと好きなんでしょう?」
えっ?
えっ……?
えぇぇぇぇぇっ!!
「なっ、なっ……何言って……」
「そんなの見てればバレバレよ」
動揺した私は、思わず手に持っていた箸を落とした。
床に転がったそれを慌てて拾いながら、激しい動悸を抱える。
さすが、お母さん。
それとも私が分かりやすいのか。
熱は急激に上がり、赤面していく頬を覆い隠したくなる。
「先生格好いいからね〜。見た目も中身も、ね」
背中を見せてクスクスと笑うお母さんを見つめ、脳裏に浮かぶのはハル君の姿。
始まりは高校の合格発表の日からだった。
……そう、あの日から。
「お母さん、今日の家庭教師なんだけど……」