再び部屋に戻ると、ハル君はたくさん汗をかいていた。
タオルで顔の汗をそっと拭い、そして呼び掛ける。
「先生」
「……っん」
「薬、飲める?」
ハル君が寝込んでいると聞いて、自分を見失っていた私。
ひたすら風邪にいいものをと思っていたら、薬まで買っていた。
普通だったら病院で薬もらっているから必要ないのに。
だけど今は、そんな自分の行動に感謝する。
「はい、お水」
ゆっくりと目蓋を開けて体を起こしたハル君は、私の手からグラスを受け取った。
素直に言うことを聞いてくれるハル君が、可愛いなぁなんて邪な気持ちを抱きながら。
「紗夜香……」
「っ……どうしたの?」
ビクンっと肩を震わせる。
甘い囁きのようにもとれる風邪で低くなった声で、急に名前を呼ばれて心臓が飛び跳ねそう。
もしかして思っていたことが顔に出てた?
だったら何だか恥ずかしいし。
なんて思っていた私の気持ちとは裏腹に、
「これじゃあどっちが年下か分からないよな」
それだけ言うとまた咳こみだして、私はそんなハル君の背中を擦った。
見た目も中身もハル君のほうが大人で、私がどんなに背伸びしたってその年の差は変わらなくて子どもで。
だけど、今はハル君の言うように、何だか違う。
小さな子どもみたいに薬を嫌がって、ベッドに寝ているハル君を見ていたら、
「ハル君もまだまだ子どもなんだね」
以前、ハル君が言っていた言葉を思い出した。
「いくつになっても大人にはなりきれない、か……」