耳元で囁かれて体は電流が走ったかのように痺れ、自分の名前が特別なもののように感じる。
「俺は“ハル”」
「ハル?」
「そう、この季節と同じ“春”」
――穏やかな春風が吹き、暖かな日差しの下。
私は“ハル君”と出会った。
心かき乱されて振り回されっぱなしだったけれど、この日のこの出会いこそ、脳裏に焼き付いて離れることはないと思う。
「っと、そろそろ戻らないとやばいな。じゃあな、紗夜香」
いとも簡単に私の頭に触れて笑顔を残し、私の心に棲みついてさっていく彼、ハル君。
もう二度と会うこともない人だけど、彼と出会えたことで私は少しだけ成長できた気がする。
初めてジェットコースターに乗ったから、かな?
「あっ、紗夜香!!」
「えっ?」
何かを思い出したのか、私の元へ戻ってきたハル君。
「生きてたって意味がないって言っていたけどさ、“生きる”ってこと自体に意味があるんじゃない? 生きて、そして、何の為に生きてるのか。
その答えを探すために俺らは生きてるんじゃないかって思うんだけど、紗夜香はどう思う?」
何だか難しい問いだけ残して、今度こそ本当に去っていった。