何て答えていいのか口を濁しているうちにも、電話の相手、望さんは早口で一人話し続ける。
ただそれを聞くだけで、会話にさえなっていない。
『じゃあ、また連絡するね』
そして、何かに急いでいるのか、用件だけ伝えたら電話を切っていた。
通話が切れた後の無機質な音を聞きながら、一人寝込んでいるハル君を思い浮べる。
一人暮らしだというハル君。
一昨日から体調を崩して熱を出したって言っていたけど……大丈夫なのかな。
そんな不安が広がっていく。
「紗夜香ー、どうしたの?」
目の前に優美の顔があってハッと我に返る。
「あっ……ハル君がね……」
そして、私は優美にこの状況を説明することにした。
ハル君が熱を出して、今日の家庭教師が延期になったこと。
そして、望さんにお見舞いに行こうと、待ち合わせ場所と時間を指定されたこと。
話しているうちに、私はハル君の元へ行きたいんだと、そう自覚しながら……。
「行ってくればいいじゃん」
「優美……。痛いってば」
バシバシと叩かれた肩を押さえながら視線を向ける。
「アハハッ、ごめんってー。でも行くんでしょ? 行きたくて仕方ないって顔してるし」
「私ってそんなに分かりやすいかなー」
「うん」
苦笑して、目を伏せて。
握り締めたままの携帯をスクールバッグに放り込んで、息を呑む。
「ごめん、行ってくる」