「あのね……」
「手」
私の隣に腰かけて、作り笑いであろう笑顔を浮かべ、
「手、貸して?」
戸惑いながらも手を差し出すと、その手を絡めとった。
「きゃっ!!」
何が起こったのか一瞬理解できなかった。
グイッと引かれた体は、颯平の腕の中にすっぽり埋まり、そのまま力強く抱き締められる。
ギュッと逃がさないように。
苦しい、胸が苦しいよ……。
「颯、平……」
今日公園で会おうと言った私を、家に誘った颯平。
二人きりで話せるならどこでもよかった。
だから、家に来たんだけど。
その時私の頭の中に、ある一説が浮かび上がる。
もしかしたら、この前の続きをするのかもしれないと。
だから、二人きりの密室を選んだんじゃないかと。
少し緩んだ手。
耳元に颯平の髪があたる。
吐息がかかり反応する体と心。
逃げないといけないのに、逃げられない。
ここにきて、私はまた同じことを繰り返すの?
それじゃあ……意味がない。
颯平だって私だって傷つくだけなんだから。
意を決して、口を開こうとした瞬間。
「俺、今から別れ話されるんだろ?」
予想外の囁きに、言葉を発しようとした口が固まった。