「うー……」
もう、何なのよ。
突然優しい口調になったりするし、微笑みかけてくるし。
優しいのか意地悪なのか分からない。
思わずスクールバッグに顔を埋めて、チラッと横を見てみると、
「あんた、今のほうがいいよ」
目が合った彼は、再び顔を近付けてきて笑顔を振りまき私を動揺させる。
こういうことをサラリと言えるあたり凄いと思う。
こっちは心臓破裂寸前なのに。
どうしてこうも振り回してくれるんだろう。
さっき会ったばかりの人に、こんなにもドキドキさせられるなんて夢にも思わなかった。
「あんた、可愛いな」
その瞬間、心臓を鷲掴みにされるかと思った。
だって。意地悪言ったりズバズバときついことを言ったりするけれど、今までの彼の言葉に嘘はないから。
何に対して可愛いのか、その真意は定かではないけれど。
「私、あんたって名前じゃないもん」
彼の前ではどれだけ自分が幼稚なのか露呈されてしまう。
そう、まるでだだっ子みたいに呟いてしまうのだから。
「ハハッ。じゃあ名前教えて?」
「紗夜香。糸へんに少ないって漢字に、夜の香りで“サヤカ”」
「ふーん、……紗夜香ね」