「おはよ、紗夜香……って、どうした!?」

「あっ、いや、ちょっとビックリして」



中々押せない呼び鈴を真剣に眺めていると、いつの間にか颯平は家から出ていて、



「大丈夫?」



目を細めて笑いながら、尻餅をついてしまった私の手をとった。

恥ずかしさより、触れる指先に心が震える。



「そろそろ来る頃かと思って、迎えに行こうかな〜って思ったら」

「あ、ありがと」



立ち上がってそっと手を離す。

決心してきたはずなのに。

颯平の顔を見ると、声を聞くと、触れられると、それが揺らいでしまう。



「どうぞ。親はもう仕事に行っていないから」

「おじゃま……します……」



二度目の颯平の家。

一度目の決心は、颯平とするってことだった。

二度目の決心は、颯平に……。


促されるまま部屋へと行き、隅のほうに腰を落とす。



「ちょっと待ってて」



そう言って颯平は部屋を出た。

一人きりになった颯平の部屋の中を、グルリと見渡す。

ここで、私は颯平としようと思った。

キスをして、服を脱がされて。

何もかもがぎこちなくて、それがまたくすぐったくて可愛くて。

快感に身を委ねそうになったけど、でも……無理だった。


あの時から、私の心は決まっていたのかもしれない。

ううん。

もしかしたらそれよりずっと前。

初めてハル君と会った時から、私の心は奪われていたのかもしれない。