後ろにはテーブルがあって、その向かい側にはハル君がいる。
顔は見えないけれど、息遣いさえ聞こえるほどシンとした静かな部屋。
眼鏡を外してテーブルの上に置き、服が擦れて少しだけ動くテーブル。
音から敏感に感じ取れる動作。
「昔な……」
テーブルにもたれてるのかな。
私もそっと背をつけた。
ハル君は何を言うのかな。
何に悩んでいたのかな。
今のハル君からは到底想像できないことに、期待と不安が入り交じった妙な感覚を覚える。
次の言葉を息を呑んで待つ。
だけど、その後の突然の衝撃的な発言は、一瞬にして私を凍らせたんだ。
「望と付き合ったことがあるんだ……」
その単語に激しく反応する体。
聞きたくなかった。
そんなことを思ってしまう。
「浮気を繰り返されて傷ついた望を、亘から奪い取った。
望が好きなのに寂しさから浮気を繰り返す亘。亘が好きだけど傷ついて疲れて俺の気持ちを受け入れた望。そんなことを全て知った上でそれでも望の傍にいたいと思った俺……」
そっと顔を向けてみるとやっぱりハル君もテーブルに背を預けていて、そして上を向いていた。
「付き合えて嬉しいと思ったのは、ほんの僅かだった」