「まぁ、次からは気をつけな?」
ようやく視線を外して姿勢を戻し、ベンチの背に両肘を乗せてくつろぐ彼。
私は小さく息を吐く。
次なんてあったらいけない。
軽い女って見られたくないし、
ついていく=そういう行為が伴う……んだと、改めて危険を感じた。
今はまだそういうことをしたくないし、そんな捨て方もまっぴら御免。
「あっ、それと。これからは“ついてこい”って言われたからって、知らない人にはついて行かないようにね」
振り向いて真顔で言う彼に、私は大声で反論する。
「それはあなたがっ!!」
有無を言わせない態度だったから、逃げられるような状況じゃなかったから、だと思う。
って、それもただの言い訳かもしれないけれど。
「アハハッ。だって、あんたがあんなこと言うから」
「あんなこと?」
「……“生きてたって意味がない”ってさ」
ハッとした。
彼の言葉で私はようやく思い出したんだ。
今日、自分の身に何が起こったのかを。
いつの間にか頭からすっぽり抜けていた現実。
代わりに埋め尽くされていたのは、目の前の彼との出来事だったんだ。