「ねぇ、いいの紗夜香? 追い掛けなくて」
目の前に優美の顔のドアップで、少し驚いて体が後退する。
だけどその問いには答えられずに、ただ俯くだけ。
大きく息を吐いた優美は、一歩後ろに下がり、そして謝った。
「ハル君のこと、口滑らせてごめんね……」
私が少し顔を上げて首を横に振ると、今までに見たこともないような真面目な顔をする。
「さっき颯平が言ってたことって本当なの? 紗夜香、ハル君のほうが好きになっちゃったの?」
好き……。
言葉にすればたった二文字。
なのに、口から出てこない。
「もしそうだとしても、このままでいいの? 颯平追い掛けないの? ねぇ、紗夜香ってば!!」
両肩をがっちり掴まれて、揺さ振られる。
力の入っていない体は、されるがまま揺れ動く。
ドサッ――。
その衝撃で肩にかかっていたバッグが落ちてしまい、中から荷物が飛び散って地面の上に散乱した。
「あ、ごめん」
「ううん」
お互い力なく会話をし、その場に屈んで荷物を拾い集める。
自分で拾ったものも、優美が拾って渡してくれたものも、次から次へとバッグに放り入れる。
「紗夜香ー……。颯平とした?」
そんな中、予想もしていなかった突然の質問は、私を驚かせて照れる暇さえ与えてくれなかった。
そして目に入った物に、衝撃を受ける。
優美が手にしているもの。
それって。
「こここここ、こっ、これは、友達がくれたものだから!!」