そんなわけで今に至るんだけど。
私は何でこの人に逆らわなかったんだろうと疑問が残る。
再びベンチにドカッと腰を落とした彼は、前屈みになって両手でペットボトルを握り締めたまま前方を一点に見つめる。
私も彼と同じように見つめてみるものの、そこに特に何があるわけでもなく、楽しそうに園内を歩く人たちばかり。
まぁ、当たり前の光景。
アトラクションが動いている間は、一番に耳に届く音はそれ一色。
だけど、それらが止まって次のお客を乗せて動きだすまでの僅かな時間。
木陰をつくる桜の木はそよぎ、春風は悪戯をするかのように頬を優しく撫でて髪をなびかせる。
乱れる髪を手で押さえて耳にかけ、一番に届いた音に私は困惑を隠し切れなかった。
「あー、何かごめんな」
「えっ、あ、えっと……」
謝られるなんて想像もしていなかった。
“ごめんな”の意味するものって?
考えだしたらキリがないほど思い当たるし。
だからと言って、何だか今はそんなに嫌な気分になったって気もおきなくて、それがまた不思議で仕方がない。
彼の顔を覗くとバッチリ視線が合って、私は更に困惑するばかり。