「忘れたいって思ってる時点で、そのことが気になってるってことだろ。忘れるってことは、気にならなくなること、心の中から消えてしまうこと……じゃない?」

「心の中から消える?」



近づいた私の頭に再び手を乗せると、今度は優しく叩いてきた。



「そう。だから、無理に忘れようとするんじゃなくて、自然に思い出になるのを待つ。……って、俺の実体験」



少し屈んで苦笑するハル君。

それって、望さんに対してのことなんだよね。

痛み出す胸を抑えるように、その前でギュッと拳を握りしめる。



「何て顔してるんだよ?」

「え? 私……」

「ほら、今にも泣きそうな顔して」



そう言って両手で頬を覆うと、摘んで思いっきり伸ばしてきた。

それに頬を膨らませるとハル君の指は弾かれて、そのまま腕を組んで軽くため息をついて、目を合わせた微笑んだ。



「本当にしっかりしてそうで危なっかしいやつ。紗夜香とこうして過ごせるのも後少しだけど、会えなくなっても心配で夢にまで出てきそうだよな」

「え? 今、何て?」



震える。

心が、体が。

たった一言の単語のせいで。



「ん? 心配?」

「違う」

「じゃあ、危なっかしい?」

「違う!!」



んー……と少し考え込んだハル君は、閃いたのかあっと声をもらして頷くと、



「秋までって言ってたけど、もしかしたら夏休みまでになるかもしれないんだよな。けど、俺の代わりは紗夜香に合った人をちゃんと頼んでおくから、心配いらないからな」



私がすっかり忘れていたことを思い出させてくれた。

そう、ハル君は秋までの契約だったね。

その理由は知らないけれど、秋には会えなくなるんだ。

忘れられなくても。


ハル君は……
私の前から、いなくなるんだ。