結局、悩みは何一つ解決しなかった。

どうしたら颯平を傷つけずに済むのか。

どうしたらハル君を忘れることができるのか。

どうしたら……この胸の痛みから解放されるのか。


自分のことばっかり。



「紗夜香ー」

「何、先生?」



家庭教師の時間が終わりを告げ、部屋を出ていこうとドアノブに手をかけたハル君が振り向く。

こんな光景前にもあったな、と思いながら顔を向ける。



「忘れたいと思っているうちは忘れられない証拠だよ。忘れたいってもがけばもがくほど、深みにはまってしまう。だから、本当に忘れたいなら……忘れたいという思いを消してしまわないと」



忘れたい、という思いを消す?



「よく、分からないよ……先生」



先生の言うことは、いつも私にとっては難しくて、理解しがたい。

立ち上がってハル君に近づく。

忘れたい。

忘れたいよ。

ハル君……、そう思ううちは忘れられないの?

いつまで続くの?