「だから、相手がいる人を他に想い人がいる人を好きになるのって、つらくないのかな苦しくないのかなって思って」

「それでも好きになるのが、恋ってやつじゃない?」

「でもっ!! そんなに苦しいなら、忘れたいって思うじゃん。私は……そう思う」



目の前にいるハル君に向かって、私は力説していた。

忘れたい、ハル君のことを。

そう思うが故、つい力が入ってしまう。



「まるで自分のことみたいだな。心配してんの? そのマネージャーのこと」



その言葉にハッとして俯いた。

自分の本当の醜い感情を見透かされたような気がして、正面からハル君をまともに見ることができず言葉も出てこない。

背中を冷たい汗がつたい、鼓動は次第に激しくなっていく。

それに追い打ちをかけるように、頭に暖かな感触を覚えて目線を上げると、



「紗夜香はいろいろと頭で考えすぎ。真面目すぎんだよ、固いんだよ。……まぁ、そこがいいとこでもあるんだけどな」



掴まれた頭は思いっきり揺さ振られて、髪の毛はぐしゃぐしゃにされた。



「痛い痛いっ!! 先生、痛いってば、離してよっ!!」

「ハハッ。やっと、らしくなったな」

「もぅ……バカ……」



髪の毛を整えながらも、ハル君のそんな言葉に、二人で見合って笑っていた。