すると、今度は私が質問をされた。
「突然どうした? 忘れられない男でもいるとか?」
ハル君は眼鏡を外してテーブルの上に置き、顔にかかった横髪を掻き上げた。
そして、そのまま両手を床について体重を預けると、視線を向けてきた。
勉強を教えてくれる先生のハル君から、いつものハル君に戻る。
そんなリラックスした状態は、私の心も落ち着かせていく。
「えっと」
だけど、言えない。
言えるわけがないよ。
本当のことなんて。
「彼のこと好きだって言う子が現れて」
咄嗟に思いついたのはマネージャーのことだった。
私に宣戦布告をしてきたこと。
それを聞いて、彼への態度がよそよそしくなって、キスを拒んでしまったこと。
その後は気まずいまま、何事もなく当たり障りなく過ごしたこと。
一番の原因であるハル君への恋心のことは伏せて、私は昨日起きた出来事をハル君に話していた。