ククッと肩を鳴らして笑われる。

その様子に怒ってないんだと判断して、ホッと肩を撫で下ろす。



「昨日から少し変だったし、また、何かあったんだろ?」



少し首を傾げて顔を覗き込まれ、何て答えていいのか分からずに目を逸らす。


ハル君は鋭いくせに、自分のことにはとことん鈍いと思う。

まさか、私がハル君のことが気になって、そして颯平とうまくいってないなんて、微塵も思っていないだろう。



「先生、勉強しよ」



話を逸らしたかった。

颯平のこともハル君のことも忘れて、何かに集中したかった。



「こういう時に勉強したって何も身につかないよ。何を教えても何を覚えようとしても、集中できないんじゃ百教えたとして一も覚えられない」

「でも!」



詰め寄る私の頭を軽く叩いて、子どもに諭すようにハル君は言う。



「紗夜香は飲み込みが早いから、一分でも一秒でも集中できる時に勉強したほうが効率がいいんだよ。だから、たまには休みな」



家庭教師という立場を忘れてるのだろうか。

普通だったら集中して勉強しなさい、と怒られても不思議じゃない。寧ろ、そのほうが自然だ。


だけどハル君は違った。

自分の体裁そっちのけの、私の為の言動。

いつも、いつも――。



「ったく、本当に世話のかかるやつ」



そんなハル君を好きだと思うけど、それ以上に……嫌いだよ。