私は颯平の何を分かっていたのだろう。

何を見てきたのだろう。

あの時、何を呑み込んだの?

何を抱えてるの?


そんなことも分からなくて、ただ傍にいる。

彼女という言葉で位置付けられた私の立ち位置は、私を颯平を、苦しめるだけの存在なのかもしれない。

それでも、もう後戻りできない。



「またボーッとしてるし」

「あっ、ごめんなさい」



昨日のことを思い返していた私は、我に返ってシャーペンを動かし始めた。

でも、頭には何も入らなくて、ただひたすらに文字を書き続けるだけ。

私は今、何をしたいのか、何をしているのか、それさえ分からずに何かを書いている。


カタンッ――。

そんな音がして顔を上げれば、ため息混じりに参考書を片付けるハル君がいた。



「今日はもうやめよう」

「あっ、ごめんなさい。ちゃんとするから、まだ、教えて……下さい」



家庭教師にハル君が来てから、一体どれくらいの時間が経ったのか。

それさえ分からないぐらい、頭は回転していなかった。

あっと言う間に片付けられたテーブルの上に肩肘ついたハル君は、まっすぐに私を捉えて離さない。



「今日、何を勉強したか覚えてる?」

「覚えて……ない、です」



だから、嘘なんかつけなかった。