「あっ。ご……ごめんなさい」
目の前にいる颯平は、驚きよりも苦痛に歪んだというような表情を浮かべていた。
何か、うまい言い訳をしないと。
そう思えば思うほど頭は真っ白になる。
息が詰まって体中の血の気は引いていき、キスをされた口元に手をあてて黙り込む。
「紗夜香さ」
「な、何……?」
気まずさからまともに目を合わすことが出来ず、震える声で言葉を搾り出す。
服の擦れる音やお互いの息遣い。
静寂したこの二人だけの空間では、どんな些細な音さえクリアに耳に届く。
それがまた、私の緊張を不安を煽る。
悪いのは私なのに。
颯平の言葉を聞くのが怖いだなんて。
その時、颯平の手が再び私のほうへと伸びてくるのが視界に映った。
体が過剰なほど反応して跳ね上がる。
「やっぱいいや、ごめん……。えっと、その」
手は引っ込んだ。
颯平は笑った。
「ちょっと勇治が紗夜香にくっつきすぎてて、妬いたんだよね、俺。ってか、紗夜香からすればマネージャーがこの場にいるってのも本当は嫌だよな。本当にごめんな」
思えばこれが、初めて感じた違和感だったのかもしれない。
明らかに作り笑顔だと分かる、そんな笑顔。
明らかに口数の増えた、痛々しい言葉。
胸が、締め付けられた。