ハル君の話は大学見学についてのことだった。
明日が家庭教師の日だから、わざわざ電話する必要もなかった。
それでも電話したのは、望さんが私と話がしたいからと押し切られたから。
充電が少ないハル君の携帯に変えて、望さんの携帯からの電話。
もちろん望さんとも話をしたけれど、その内容はまったく頭に入らなくて。
ただ胸がチクチク痛んでいたことだけが鮮明に心に残る。
静かに携帯を閉じて、白いレースのカーテンがかかった窓の外を眺める。
雲に覆われた空はそれでもなお明るくて、何だかため息をつきたくなった。
今でさえこんなに傷ついている自分がいる。
なのに、実際に仲の良い二人を目の当たりになんてできるのかな。
私の心にかかる雲は、どんどん広がりを見せていく。
明るさなどまったく感じられない、黒くて薄汚い暗雲。
一筋の光さえ見つからない。
「紗夜香、ごめん。ちょっといい?」
ハッとして振り向いた。
少し開いたドアからは颯平が顔を出していて、手招きをしながら呼んでいる。
私は罪悪感を抱きながら重く感じる腰を上げ、そして、近づいていった。