『もしもし、紗夜香ちゃん?』

「あっ、はい」



聞いたことのあるような女の人の声に、記憶を手繰り寄せてみるけれど誰も当てはまらない。

それなのに、なぜか自然と胸が痛みだした。

ギュッとシーツの端を握り締めて、電話越しの声に耳を傾ける。


そして、痛みの原因はすぐに分かった。



『何勝手に話し始めてんだよ』

『いいじゃん、携帯の充電切れそうなんでしょ? これ私の携帯だし、私も紗夜香ちゃんと話したいし』



携帯電話の向こう側のやりとりを、私はただ耳を傾けて聞くことしかできなくて。



『ごめん突然。俺だけど、分かる?』



それが誰かなんて、分からない訳がなくて。



「先生……、だよね」



さらに強くシーツを握り締め、震える声で答えた。


さっきの女の人は望さんだ。

ハル君の忘れられない人。

今も胸の中にいる人。

無意識に痛みだした胸を思い出し、さらに胸が苦しくなる。


当たり前だけど仲の良さそうな二人に、休日なのに一緒にいる二人に、胸が痛んで張り裂けそう。

颯平といる時には感じたことのない痛み。


ことあるごとにハル君と颯平を比べ、その違いを実感する。

そして、気付かされる。


私はハル君に、
恋……しているんだと。