私は颯平のことが好き。

付き合っているなら当たり前。

それは呪文。

私自身にかけるための呪文。


……相変わらず、ひどいね私。


こんな状況にまでなって、覚悟だって決めていたはずなのに、それでも、



「颯平、私……」



これ以上続けることができなかった。

自分の為に流した一粒の涙が、頬を伝って流れていく。

黒くて汚い感情が流れて目に見える。



「ごっごめん!! 俺、がっつきすぎだよな」

「違っ」

「初めてなのに紗夜香の気持ちも考えないで。本当にごめん……」



起き上がった颯平はいつも以上に優しく私に触れると、直ぐ様視線を逸らしてジャージを手渡してくれた。

一瞬見えた横顔は、苦しそうに唇を噛んでいて……。

だから、それ以上何も言えなくなった。


いつもそう。

颯平にこんな表情をさせるのは私で。

傷つけるのも私。


気まずい沈黙の中に、背を向けて服を着る音だけが響いていた。