玄関から顔を出してハル君が階段を降りていくまで見送って、両手でゆっくりとドアを閉める。
誰もいなくなった家の中は静かで、どんなに声を押し殺しても漏れてしまう。
最低で最悪なのは自分だって分かっている。それでも溢れだす涙が止まらない。
「ごめ……そう……へ……」
部屋に戻って、携帯をギュッと握って胸に当てた。
登録された新たな番号に胸を踊らせるも、よぎる颯平の存在に罪悪感で押し潰されそうになる。
好きだと思ってた。
ううん、好きだった。
その気持ちに偽りなどなかった。
だけど、恋と呼ぶのに不確かなのは、もしかしたら颯平への気持ちだったのかもしれない。
マネージャーとのこと誤解して、モヤモヤしてイライラしてムカついて。
まるで、おもちゃを取り上げられた子どものような独占欲だった。
穏やかで安心できる颯平との関係は、胸が苦しくなったり切なくなったりはしない。
なのに、ハル君といるとドキドキが止まらなくて、望さんとのことを聞いて息ができなくなるぐらい苦しくなって。
零れそうな涙を必死で堪えた。
それを恋と呼べずにはいられなくなった。
ハル君といたいっていう気持ちが強くなってきた。
あの日、颯平を選んだのは間違いだったのかな……。