「何で笑ってるのよ……」
「ん? だって紗夜香の反応面白いしさ」
「確信犯」
「ハハッ、そーかもな」
再び眼鏡をかけたハル君は肩をならして笑っている。
不貞腐れつつもこんな会話が楽しくて、理由がどうであれ“特別”だと言われたことが嬉しくて、
「ありがとう」
笑みを零しながらそう言った。
束の間の楽しいやりとり。
それもここまでで、これからが本題。
パラパラと捲る音が聞こえたかと思うと、勉強モードに切り替わったハル君に背筋が伸びる。
教える側が真剣でマンツーマンが故、私も学校の授業より気合いが入る。
さっきまでの談話が嘘みたいに、一気に緊迫した空間へと変貌を遂げる。
「じゃあ、今日は化学から」
ハルくんの言葉に耳を傾け捲る参考書。
授業より長い時間、それでもあっという間に過ぎる家庭教師の時間が始まった。