「今だけ……お願い。抱きしめて」
駅の階段を登りきる一歩手前で、未だ体を震わせながらマネージャーは颯平の制服の裾を掴んで言った。
つらい時、誰かにすがりたくなる気持ちは分からなくもない。
きっとマネージャーもそんな気持ちに陥っていたのだろう。
ホームにはN高の生徒がたくさんいた。
それにも関わらず、一瞬戸惑いながらも階段を登りきったところで颯平は抱き締めた。
ぎゅっと。
優しく包み込むように。
それで少しでも不安が取りのぞけるなら、と。
「俺、紗夜香の気持ち考えていなかった。本当にごめん」
私が見たのはその時の光景。
「マネージャーとは何もないから。抱き締めたのもあれ一回キリだから」
戸惑いを隠せなかった。
何を話していいのかうまく言葉が出てこない。
私が責められるわけもないし、何より私をそんな状態にさせたの別の理由だった。
笑顔が似合う颯平が、誰かを睨んだり、怒鳴ったり、他の女の人に触れたり。
そんな颯平、私は知らない。
知らない……。