「俺って優しい?」

「うん、とっても」

「ありがと、な。紗夜香にそう言われると何か嬉しいや」



そう言って照れる表情につられて私も顔が緩んだ。


颯平と過ごすこんな穏やかな時間が好きだから。

純粋な颯平が好きだから。


だけどその優しさが時として仇になることを、この時までお互いに気付いていなかったのかもしれない。



「それで、どうしてあんなことになったの?」



多分、抱きしめていたことには何らかの理由があったんだと思う。

颯平の気持ちはまだ私にあるんだって、都合よく解釈してしまう。

だけど、それなら何で?
って気持ちが私の中を支配していく。


公園の中を照らす外灯が、タイミング悪くチカチカとした光を放ち出した。

夜空の月も次第に雲に隠れていき、その輝きを見失っている。

その表情さえ見えないことはないけれど、はっきりとは分からなくて。

そのことが、私の心の中の不安を煽っていく。



「あの日は」



続く言葉に耳を逸らしたくなる。

だけど、唇を噛み締めて颯平を見据えた。

逃げずに向き合うことを教えてくれたハル君の為にも。