挫けそうになった時、目を背けたくなった時。

逃げ出すのは簡単なこと。

勇気を出して決心したことでも、弱いから。

すぐにまた揺らいでしまう。

だけどたった一歩でも進んだのなら、その先だってきっと進めるはずなんだ。


私には背中を押してくれる人がいる。

誰かに頼ること、それって本当は弱いことかもしれない。

だけど、誰かがいてくれることがこんなにも力をくれる。


駆け出したその足で向かうのは颯平の家の方向。

握り締めていた携帯を開き取り出す番号。


勇気を下さい。


長いコール音。

荒々しい息遣い。

風をきるように走り続け、確実に一歩一歩進んでいく。


辺りを街灯が照らし始めていた。

薄暗い道に一筋の光が差し込む。

それに導かれるかのように、携帯を耳にあてたまま走り続ける。



「そ……へい……」



プツッ――。

鳴らしても出ない携帯は無常にもコール音が切れ、無機質な音が耳に鳴り響く。

それをポケットの中に入れて、さらに速度を上げて走りだした。