伝わる微かな振動に気付き、思わずスクールバッグを肩にかけたほうの手で、制服のポケットから携帯を取り出していた。
表示されているのは【自宅】の文字。
ハッとして、直ぐ様通話ボタンを押そうとしたところで、
「……何で、携帯」
ようやく気が付いた。
「あ、これは……っ、待って!!」
颯平に言ってなかったことを。
片手に携帯を握り締めたまま、早足に去って行く颯平を慌てて追い掛ける。
「颯平!!」
無我夢中で掴んだ制服の裾。
ピタリと足を止めて、私を見下ろす颯平。
胸の動悸が激しくなる。
まただ。
また、颯平にこんな顔させてしまった。
「……んねーよ」
「えっ?」
颯平は静かに穏やかに微笑した。
「俺、もう紗夜香の気持ちが分かんねーよ」
掴んでいた手を軽く振り払われ、颯平はまた歩きだした。
何も言えなかった。
だんだんと遠くなるその姿を、その場に固まったまま見つめるだけで。