「先、生……」



私の腕を掴んでいたのは、ハル君だった。

颯平はホームへと消えていったのだから、よく考えれば追い掛けてくるなんてないってことぐらい分かるはずなのに。

それだけ、頭がぐちゃぐちゃだった。


はぁーっと大きくため息をついたハル君は肩を落とし、掴んだままの腕を離さずに片手で乱れた前髪をかきあげた。



「さっきの彼氏なんだろ?」



チクチクと痛む胸。

頷く私にハル君は話を続ける。



「さっきの様子じゃ俺とのこと誤解してるだろ? 何で逃げた?」

「……かた……ないの」

「ん?」



呟く言葉を聞き返され、声を震わせながら私は答えた。



「仕方ないの。私ずっと、彼を避けていたから。だから誤解されたって」



仕方ない。

どんな言葉も言い訳にしかとれない。

だって……。



「っとに世話が焼けるな」



ハル君は力強く私の腕を引っ張って体を寄せると、背中を軽く押してホームへと促した。



「ほら、早く行ってこい!! 避けていたことにどんな理由があるにしろ、このまま誤解されたままだといずれ後悔するぞ?
逃げずに向き合って話しておいで、な?」