頭の中でグルグルと思考が回り続ける。

ハル君に話しかけられてもうわの空で、それから何を話していたのかよく覚えていない。


ただ気付いた時には駅の改札口だった。



「時間ギリギリだな」

「うん」

「十分待ちか」

「うん」



駅のホームへと続く階段を上っていく。

その途中、急にハル君は立ち止まって振り返り、私の顔を覗き込んできた。



「人の話ちゃんと聞いてる?」



ハッとして慌てて頷く。

まともに目も合わせられないから視線が痛くて、妙な緊張感を持っているから鼓動が早まって、



「ま、いっか」



再び歩きだしたハル君に安心して、フーッとため息をついた。 

ハル君の背中を見つめて歩きだす。

そうしたら、ハル君は再び振り返ってきた。



「そう言えば、紗夜香は何であそこにいたの?」

「あー、えっと、N高に……」



何て言うべきか。

正直に言うべきか。

悩む必要なんてないはずなんだけど、悩んでしまった私は、



「キャッ!!」



段差を踏み外してしまい、視界が揺らいだ。


あぁ転ぶんだ。

なんて呑気に考えながら思わず目を瞑った。


痛い。


あれっ?

痛く、ない。



「あっぶねー」

「せっ、先……生……」



片手で手摺りを掴んで、軽々と私の体を抱きとめてくれていたハル君。


痛みの代わりに、
胸が、熱くなる。