「ごめんなさい、名前も言ってなかったわね。私は今村望。よろしくね!」



その望さんという人は、ハル君の高校からの友達で同じ大学らしい。

講義が終わって望さんの彼の家に集まっていたんだけど、ハル君が家庭教師のバイトがあるからと帰るのを機に、望さんたちも夕食を食べに家を出たって。

で、肝心の彼はと言うと、忘れ物を取りに家に戻っていると。


明るくて気さくで、聞いてもいないのに次から次へと話しかけてくる。

だけどそんなに嫌な感じもしないのは、このサバサバとした明るい雰囲気のせいなのかな。


話の途中、ハル君は私がその家庭教師の生徒だと紹介し、私は香里奈を紹介した。



「一体何なんだか……。彼と会うのは今日は諦めるしかなさそうだね」



この訳の分からない状態に香里奈は苦笑しながらも、あながち嫌そうではなかった。



「ハハッ、そうだね」



私はホッと肩を落とした。

いつまでも避けられることじゃないのに。



「にしても遅いなー、亘ってば」



……あれっ?

どこかで聞いたことあるような。

首を傾げると同時に、ハル君が突然私に近寄ってきた。



「早く行かないと二人して遅刻だし、紗夜香行くぞ」

「あ、うんっ。香里奈ごめん、また明日」

「分かった、夜メールするね」

「うん、待ってるね」



何か慌ててる?

いつもと様子の違うハル君に再び首を傾げながら、その場を立ち去ろうとしたその時。



「わりぃー、望!!」



足音と共に聞き覚えのある声が、道の向こう側から聞こえてきた。