一度逃げてしまうと、再び向き合うことが困難を極める。
そんな私が思い出すのはハル君のあの言葉。
“やり直すことができる”
だけどもし、颯平にあのことを問いただして、私が予想する一番最悪のパターンだったら。
そう考えるとどうしても行動できなくて、颯平を避け始めて一ヶ月を過ぎた頃には、まったく音沙汰もなくなった。
「はぁー。逃げだよ、逃げ!」
「……分かってるんだけどさ」
「あー、もう。何の為にバイト始めて携帯買ったのよ」
……それは颯平のために。
口を結んで返す言葉もなく身を縮ませる。
「で、紗夜香はハル君とやらに乗り換えるわけ?」
「ま、まさかっ」
「だったらさぁ」
深いため息をついて、呆れ気味に私を見つめる香里奈。
逃げてるだなんて、そんなことは十分分かってる。
分かっていますとも……。
「私、そうやってウジウジしてるの大っ嫌いなんだよね」
痺れを切らした香里奈は、立ち上がると売店に言ってくると言って教室を出ていった。
私も嫌だよ。
そう思っているのに、どうして行動できないんだろう。
両手で握り締めている、ストラップもつけていないパールブラックの携帯を凝視した。