「ここに確かに刻まれているだろ?」

「どこ?」

「ここ」



爪の中に砂が入り込んでいて、手の平も甲も所々砂の小さな粒子がついて汚れている私の手。

それをハル君は指差した。



「紗夜香が頑張った証。この手が証明しているだろ」

「こんなの洗ってしまえばおしまいだよ」

「アハハッ。そうだなー。けどな?」



ハル君の指が伸びてくる。

それはまた、ゆっくりと何かを差していた。



「今度は何?」

「ここ」



制服の赤いネクタイの結び目の少し下。

そこを指差したハル君はフッと笑った。



「何かに向かって頑張ったことは、ここに残っているだろ? 例えば……受験とか?」



ドクンと胸が鳴る。

何気なく発したハル君の言葉で、鮮明に思い出すあの絶望感。

思わず顔をしかめる。



「……けど、公立落ちたもん。頑張ったって結果が残せないと意味なんかないんだよ」



自然と垂れてくる頭。

少しの沈黙が凄く重苦しい。



「結果も大事だけど。それだけじゃないんじゃない?」

「だって、落ちたんだよ! 意味分かんない」



私は今までにない剣幕でハル君に向かって叫んでいた。

淡々と話すハル君に対して、無性に腹が立ってきたから。



「んー、公立に落ちたからって人生はそこで終わりじゃないだろ?
これから先、いろいろなことがあるんだ。大学受験だったり就職だったり。高校受験はあくまで一つの節目に過ぎないんだから」

「……簡単に言わないでよ」



逆戻りだ。

あの日に。



「先生には私の気持ちなんて分かんないんだよ!」