「彼女は何年もいないよ」
「えっ、何で?」
指先で砂をすくい上げては蹴り飛ばし、大きな砂の山に目をやる。
ハル君も私を見ることはなく、同じ視線をたどっている気がしたから。
この話をしてから、急に空気が変わった。
もしかしたら、聞いたらいけないことだったのかもしれない。
だけど、何でと聞かずにはいられなかった。
「……ずっと忘れられない人がいて、それ以上の人が見つからないからかな」
深いため息と一緒に吐き出された言葉に息を呑む。
どうしよう。
何だか苦しい。
彼女がいないって聞いてホッとしたのも束の間、胸が締め付けられる。
いつもと違う雰囲気に加えて、真剣な語り口。
きっと本当のことだ。
ハル君への想いを確信してすぐに突き付けられた現実に、心が追い付いていかない。
「って、何で紗夜香が泣いてんだよ!!」
「……えっ?」
ポロポロと。
ハル君に言われて気付いた。
無意識のうちに出ていた涙が、砂の上に落ちて水玉模様を描いていた。