「ったく、頭良くてもあんな軽い男はありえないし」



どんどん先を歩いていきながら、まだブツブツ言っている。

よほど怒り心頭だったのか声は低いまま。

私は後ろから苦笑してついていくしかなかった。


N高の校舎がどんどん遠ざかっていく。

香里奈は相変わらず独り言を繰り返し、私は嫌でもさっきの颯平を思い出していた。

彼女を見つめる颯平。

別に深い意味なんてなかったかもしれない。

ハッキリとした表情は見えなかったんだから。


だけど、見えないから、離れているから。

疑ってしまう。

不安に感じてしまう。

寂しくなる。


中学生だった頃の私たちはもういない。

私も颯平も新しい環境で別々の生活があって、新しい友達ができて、お互いに知らないことが次々と増えていく。

それは当たり前で、仕方がないこと。

いつまでも一緒にいられるわけなんかないんだから。

分かってはいるんだけど、何だかこんな気持ちを抱く自分が情けなくなる。

颯平のこと信用していないわけじゃないのにさ。


アスファルトに落ちている小石を軽く蹴る。

周りの音にかき消されそうなほどの小さな音が、私の心に大きく響く。

私は俯いたまま、何度も小石を蹴り続けていた。