グラウンドの奥のほうで練習をしているサッカー部。
「紗夜香、彼分かった?」
「うん。あの手前でリフティングしてる人」
不思議。
みんな同じような背格好で、ここからだと顔がはっきり見えないのに。
颯平だ、ってすぐ分かった。
「んー、分かんない。こっち側来てくれないかな」
体の一部のように巧みにボールを操る姿。
高く舞い上がるボールを軽やかにキャッチして、みんなの元へと走っていく。
途中汗を拭いながら、楽しそうに肩を弾ませて。
照りつける日差しよりも颯平の姿が眩しく感じて、私は胸がギュッと苦しくなった。
「あ、試合するみたい」
香里奈の言葉に言葉を返すことができず、視線だけずっと颯平を追っていた。
こっちに近づいてくる。
零れる笑顔も、
風になびく髪も、
ボールを操る足も、
ホイッスルが鳴った瞬間に変わった真剣な表情も、
すべてが胸を苦しめる。
ドキドキと、息ができないぐらい苦しい。
私の知らない颯平の姿。
そんな彼の一面に、見惚れてしまって瞬きさえ忘れていた。