「あっ、そう言えばさ」
「うん?」
「彼、N高なんでしょ? 確かサッカー部なんだっけ?」
「そうだけど……」
「じゃ、どうせ通り道だし寄ってみよ!」
そう。香里奈の家はこの道を直進したら着くN高から目と鼻の先にあるらしい。
この駅もこの道も、あの日の絶望感を少し蘇らせる。
立ち直っているはずなのに、それでも胸が少しだけチクッと痛む。
やっぱり……。
嫌な思い出は嫌な思い出のまま。
それでもこの場所に来れること自体、私は進歩したんだろうな。
「彼、どんな人?」
「んー、不器用だけど凄く優しくて、私のこといつも気遣ってくれて、意外に寂しがりやで照れ屋で……」
「本当に彼のこと好きなんだね。何か羨ましいなー」
香里奈は私の顔をチラッと見て微笑んだ後、大きく伸びをして先に進んでいった。
私は少し照れながら答える。
「アハハッ、うん好きだね」
だから、嫌な思い出がある場所でも、香里奈の提案を断らずに行こうって気になれた。
颯平がいるから。
今の時間だったらきっと部活をしているはず。
サッカーをしている姿。
一体どんな感じなのかな。
見てみたくなったんだ。
私の知らない高校での颯平を。