「?なにか言った?」



「いや……茶碗蒸しもうまいなって……」



蒼はペロリと完食し、容器を咲良に返した


少し元気が出たのか会話をするようになり、だんだんといつもの蒼に戻っていく



「なんか出汁の味がホッとするなぁ」



「でしょ!」



「咲良の父ちゃん料理すんだな」



咲良の父は居酒屋経営をしていた


そういう話で2人は盛り上がり、時間を忘れてお互いのことを話した


咲良は共働きの両親で家ではだいたい1人など


蒼も同じく共働きの両親のためおばあちゃんに育てられたこと


そして昨日の転部の話もしてくれた



「ばあちゃんがさ……体調崩して入院したんだ」



「え………」


「もう年だし覚悟はしてんだ。でもこの前、見舞いに行った時に言われたんだ………やりたいことをやって生きていけって」



蒼は少し切なそうに咲良に話した


本当は自分をさらけ出す話は他人はしない主義


でも咲良には何故か話したくなった


咲良に聞いてもらうと心が安らかになる



「だから野球部に?」


「ああ……」



「じゃあ……めちゃくちゃ頑張らないとね!」



咲良はそう言って微笑む


蒼が打ち明けてくれて嬉しかった


私も蒼のおばあちゃんみたいに好きなことしてもらいたい、そしてそれを応援したい



“蒼が大切だから”



キーンコーン‥‥



「やばっ!次、音楽だっけ?」



「うん!早く移動しないと間に合わないよ~」



次の授業の予鈴が鳴り響く


2人は慌てて、立ち上がろうとした


蒼はスタッと立ち上がり、咲良の手を握り立ち上がる手助けをした


咲良は手が触れたことに心臓が跳ね、立ち上がった時に近くなった蒼の顔にカーッと顔を赤くした



「‥‥‥何ボケッとしてんだ。早く行くぞ」


ピンッとデコピンをされ、手が離れた


蒼は足早に本館に向かう


咲良は赤くなった顔を隠しながら、デコピンされた額をさすりながら渡り廊下を走った