部屋に入って私はリビングのテーブルの前に座った。


彼はそのテーブルを挟んで反対側に座った。



「久保さん、私に話さなきゃいけないことがあるんじゃないの?」


久保さんの口から転勤の話しを聞きたかったから私はそう言った。



久保さんはきっとその言葉で私が転勤のことを知っていると悟ったんだと思う。



「ごめん、俺・・・マレーシアに転勤が決まった。」


久保さんは臆することなく転勤のことを私に話した。


これで決定的になった。


信じたくなかった彼の転勤が・・・



「なんで謝るの・・?どうして謝るの!?ごめんって何!?」


その「ごめん」の意味は確実に私と別れる「ごめん」だった。



「本当は俺だってついてきてほしいんだ!でも君はまだ学生で自分の夢もあるだろ!」


もう私は涙が止まらなかった。


彼の言っていることは正しかったから。


今の私にはついていくことができない。


まだ夢を追っている途中。


大学生の私に彼についていくなんて選択はもちろんなかった。



「もうだめなんだ・・・待っていてほしいけど、日本に帰れるのはいつになるか分からない。そんな中途半端な状態で待ってろなんて君には言えない。縛りつけたくないんだ。」



彼は分かってくれよ、というような目で私を見た。



涙は止まることを知らず、私は30分以上沈黙の中で泣き続けた。