あなたと別れて、5度めの夏がまたやってきた。











「千佳ちゃん?そう、今向かってるの」



ケータイの向こう側から
さいきん立ちはじめたという一真の泣き声が聞こえた。




今年の夏も暑くてしょうがない。



あたしは、ハンカチで頬をぬぐった。
今の気温は何度なんだろうか。
33.5度という表示がケータイに映し出される。



はやくエアコンの効いた部屋に行きたい。
あたしは歩く速度を早めた。


あたしは一ノ瀬麻里香。
23歳、大学生。



教員になるために毎日コツコツ勉強している。昔から夢だった音楽の教師。



あの中学に行って、あの高校にもう一度行きたかっただけなのかもしれない。


汗がタラタラ垂れてくる。
マスカラが落ちそうで怖い。



そんな事を考えていると
待ち合わせのカフェに着いた。



中に入ると気持ちいい冷えた空気があたしを癒してくれた。



「麻里香、こっち!」
千佳ちゃんはもう座っていて、いつものようにどこか上品だった。


「遅くなってごめん。課題が終わらなくて」
「いいって。それより上田さんは?ダメだったの?」