「おいリン、リン」
「……私は香蘭でございます、秋蛍様」
「お前の名など呼びたくはない。敵国の者だと忘れないためにもお前をリンと呼ぶ」
「……勝手になさってくださいませ」
鏡の間で、秋蛍と向かいあいながら香蘭はため息をついた。
秋蛍は本当に香蘭のことを気に入らないようだ。
「さて……、昨日華京様に聞いた通り、我らは鏡を守り、鎮めるのが役目だ」
「はい」
「そのための訓練だ。まずは鏡と、逃げずに向かい合う」
「逃げずに?」
「お前はすぐに鏡から逃げる。だから倒れるんだ」
そう言いながら、秋蛍は手にしていた鏡を覆っていた布を取り去った。
そしてその鏡に、香蘭の姿を映す。
香蘭は鏡に映った自分を見た。
見慣れた顔、髪の色。
ただ違うのは、着ているものが鏡国のものだということだ。
そこまで確認したあとで、香蘭はいつものように具合が悪くなってきた。
じわりと汗を浮かべながらも必死に鏡を見ていると、黙って見ていた秋蛍が口を開いた。
「お前はどこを見ている?」
「―――え」