王宮へ連れてこられた香蘭たちは、狭い部屋に閉じ込められていた。
縄もかけられず、ただ鍵を閉められた部屋の中に放り込まれただけだ。
ハルはそれが気に食わないようで何度も扉を蹴っていた。
半刻ほどして、若い男が部屋の中に入ってきた。
男は愉快そうな表情を浮かべて、手をひらりと振った。
「やあ、兄さん。久しぶりだね」
「宝焔…」
入ってきた男を見て、憂焔が顔を歪めた。
宝焔という名前を聞いたことがあった香蘭は、すぐに彼が憂焔の弟だとわかった。
髪の色も瞳の色も、憂焔と同じだ。
ただ違うのは、どこからともなくあふれ出る冷たい気配だけだ。
「生きていてよかったね。まあ、殺す気なんてなかったんだけど、死んでも別に構わなかったのにな」
くすくすと笑いながら、彼はこちらに近づいてくる。
「華京殿がむやみに命を奪わないのはわかってた。あの女が気絶させていた護衛たちを殺したのは僕だよ。罪は深くなきゃ面白くないしね」
香蘭は息をのんだ。
宝焔はいたずらが成功した子どものように、無邪気に話続ける。
「でも生きていてよかったな。兄さんも大切な役者だからね」
「どういう意味だ」
「これだよ」
宝焔は何かを投げて寄こした。
慌てて憂焔が受け止めた、銀色のそれは―――
ハルが悲鳴をあげてそれに飛びついた。
ハルが力を込めると、みるみる人の姿に変わっていく。