しばらくして、憂焔が体をこちらに向けた。
「なあ」
憂焔に顔を向けると、彼は迷ったように瞳を揺らした。
どうしたのかと首を傾げて、彼の様子をうかがった。
「どうしたの…、きゃっ」
突然、憂焔に抱きしめられて、驚いた香蘭は身を固くした。
すぐ耳元で吐息が聞こえて、香蘭の心臓が暴れ出す。
「ゆ、ゆうえん?」
彼は何も答えず、香蘭を抱きしめる腕に力を込めるばかりだった。
体温と、耳元で聞こえる吐息に香蘭は堪らなくなって、腕の中で身をよじった。
「苦しいからっ」
「ごめん」
憂焔は香蘭を離し、香蘭の顔をみつめた。
真面目な顔で見てくるので、香蘭も目がそらせないまま、ごくりと息をのんだ。
憂焔はすぐに、柔らかい笑みを浮かべた。
「戻るか」
そう言ったときの憂焔の顔が寂しそうで、香蘭は胸が締め付けられる思いがした。
それなのにどうして自分は、
憂焔の胸に今すぐに飛び込んでいけないのだろう――
先に立ち上がった憂焔が差し出した手に、ゆっくりと手を伸ばしたときだった。