振り返ると、ハルはいつの間にか鏡の姿に戻っていて、本格的に休息を始めたようだ。
ハルが目を覚まさないように、静かに部屋の扉を開け、廊下に出た。
屋根がついているだけの廊下は、夜を直に香蘭に感じさせた。
夜風がさらりと香蘭の頬を撫でていく。
輝く月が照らす夜の街は、夜であることが信じられないほど明るい。
扉の前に座り込んで月に見入っていると、人の気配がして、はっとそちらに顔を向けた。
「外に一人でいるなんて、危なっかしいにもほどがある」
呆れ顔でこちらに近づいてくるのは、憂焔だった。
「大丈夫よ。これ持ってるし」
ちらりと短刀を見せると、憂焔はやれやれと首を振ったが、何も言わずに香蘭の隣に腰を下ろした。
「憂焔こそ、どうして部屋を出てきたの?」
尋ねると、憂焔は肩をすくめてみせた。
「耐えられるわけないだろ。お前の兄上は俺が気に食わないみたいだし、秋蛍のやつも嫌味ばっかり言ってくるし」
「お兄様は遊んでいるだけよ。秋蛍様はともかく」
香蘭がふふっと笑うと、憂焔は黙り込んで、地面を見つめた。
憂焔が黙ってしまったので、香蘭はまた月を見上げた。
ちょうど薄い雲がかかって、辺りを照らす光が弱まってしまった。