ハルが椅子に座って足をぷらぷらさせながら、心配そうに言った。


香蘭はぷっと吹き出し、脱ぎ捨てた服を漁ると、愛用の短刀を取り出した。


「攫われないわよ。私、こう見えて結構強いのよ。鏡は、まだ…秋蛍様のようにはいかないけど」


短刀の柄を撫でると、ハルがぴょんと香蘭の寝台の上に飛び乗ってきた。


「リン…、お願いだから無理しないで。死なないで」


「死ぬわけないじゃない。どうしたの?ハル…」


いつになく気弱になっているらしいハルを抱き寄せると、ハルは香蘭に猫のようにすり寄ってきた。


頭を撫でてやると、ハルは目を瞑った。


そしてぽつりとこぼした。




「リンが死んだら、今度こそ秋蛍は…」




「秋蛍様?」


香蘭が聞き返したときには、ハルはもう小さな寝息をたてて眠っていた。



香蘭はハルを起こさないようにそっと横たえ、寝台から降りた。


肌寒くなってきたので、服を拾って簡単に身につけると、短刀を手にとった。



桜の花が装飾されてあるこの短刀は、母の形見だ。



香蘭に唯一残された、母を感じるもの。



顔も見たことがないが、この短刀を見ていると母が側にいてくれているような気持ちになる。




香蘭は刀を握りしめ、そっと懐に入れた。