「それじゃあ、父が倒れたのはここ2、3日のうちってことか。宝焔が指揮を執っているとなればこの状況はますます怪しいぞ。俺たち、すでに罠にかかっているかもしれない」
憂焔が顔を曇らせて慎重にあたりに伺うのをみて、秋蛍がふんと鼻をならした。
「罠にかかろうがかかるまいが、敵城に入ることができれば問題ない。香壺は王宮の中にあるんだからな」
憂焔はむっとして秋蛍を睨んだ。
「でも俺見たことないぜ。そんな大切な宝なら、どこかで厳重に保管しているんだろうけど、噂も聞かないし」
「案外、お兄様のように普通に持っているかもしれないわよ」
そう言って香蘭が憂焔の服を探ろうとしたので、憂焔は慌てて香蘭の側から飛びのいた。
「そんな馬鹿な」
あいつらがそんな抜かりをするなんてありえないと首を横に振った。
それに、ハルも香壺の気配を感じ取っていない。
それもそうかと香蘭は手を引っ込めた。
日も暮れてきたので、宿をとることにした。
香蘭とハルは秋蛍たちとは部屋を別にしてもらい、久しぶりにのびのびとくつろぐことができた。
「リン、うれしそうだね」
「そりゃそうよ。あの人たちと一緒にいたんじゃこんな恰好できないもの」
香蘭は動きづらい服を全て脱ぎ去り、下着姿で寝台に身を投げ出していた。
「でもリンはお姫様でしょ。いくらなんでもその恰好はまずいんじゃない、いつ攫われるかわからないのにさ」