そう言って去ろうとする宝焔を、従者は慌てて引き留めようとした。
「まだ、傷の手当が…」
「大丈夫。このくらいの傷、自分でなんとかできるから。そのかわり、ここのことは君に任せる。頼んだよ」
従者は宝焔を尊敬の目で見つめた。
彼は愚かにも素直に頷き、後の処理を行うために走っていった。
宝焔は深く息をつき、青ざめながらも自室へ向かった。
やっとのことでたどり着くと、寝台に身を投げ出した。
傷口の血が寝台を汚したが、そんなことは構わなかった。
彼は片腕を目の上に乗せ、しばらくそうやってじっとしていた。
やがて、ふふ、と笑いがこぼれる。
「あとは、主役を待つばかり―――」
体を起こした彼の表情は、慕われる皇子とはかけ離れた、何かに憑りつかれたようなものだった。