「まさか、紅玉が僕を裏切るなんて…」


紅玉姫が連れ出されたあと、沈痛な表情を浮かべて傷口を押える宝焔に、従者が気遣わしげに宝焔の肩に腕をまわした。


「あの者は真の王族ではない、ただの貴族出身の姫です。信用ならないと前々から思っておりました」


「そうか…」


宝焔は従者をじっと見つめたあと、にこりと笑った。


「僕もそう思っていた」


そう言って立ち上がり、ふらついて壁に手をついた。


それを見た従者が慌てて彼の体を支える。




痛みに顔を歪めながら、内心舌打ちした。





すこし深くやりすぎたか。





宝焔は従者の手を振りほどき、真っ直ぐに彼を見た。



「父の葬儀を明日とりおこなう。だが、知らせるのは一部の者だけだ。他国との関係が危うい今、王の崩御なんて知れたらことだからね。父上はご病気で臥せったことにして、これからの指揮は僕が執る」


「はい。了解いたしました」



「それと…、紅玉姫のこともだ。さっきの騒ぎであの兵士達には知られたが、口止めぐらいできるよね。紅玉は牢ではなく彼女の部屋に閉じ込めておくように」