「きゃああ!」
紅玉があげた悲鳴をききつけて、従者が部屋に飛び込んできた。
彼の目に入ったのは、血だまりの中に倒れている国王と、紅玉姫が宝焔皇子に倒されているところだ。
宝焔皇子の体から血が流れているのを認めると、血相を変えて紅玉を取り押さえた。
「紅玉姫の謀反だ!誰か来てくれ!」
すぐに兵士がかけつけ、呆然としている紅玉を縛り上げた。
紅玉は体に力が入らず、何の抵抗もなく兵士たちにされるがまま、部屋の外へ引き摺られた。
青ざめた従者が息の荒い宝焔皇子を抱き起こし、手当をしようとしている。
紅玉が兵士に連れられて部屋を出る寸前、紅玉は宝焔と目があった。
そして彼は、笑ったのである。
紅玉に向かって、にっこりと。
紅玉は自分が嵌められたことに、ようやく気付いた。
彼が香王を殺したのだ。
そしてその罪を自分になすりつけるつもりなのだと。
悲しい、愛しい、苦しい、寂しい、様々な気持ちが一度に紅玉を襲い、声をあげることもできなかった。
ただ涙だけが次から次へと溢れ、滲む視界の中、無常にも扉は閉ざされ、宝焔の姿は扉の奥に消えた。